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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)16392号 判決 1989年9月01日

原告(反訴被告)

鈴木孝幸

被告(反訴原告)

井住運送株式会社

ほか一名

主文

本訴請求事件

一  本訴被告らは連帯して、本訴原告鈴木孝幸に対し、二四七万四一一六円及びこれに対する昭和六〇年八月二七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  本訴被告らは連帯して、本訴原告鈴木和子に対し、二二五万一八八七円及びこれに対する昭和六〇年八月二七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  本訴原告らの、その余の請求をいずれも棄却する。

四  本訴訴訟費用については、これを一〇分し、その九を本訴原告らの負担とし、その余を本訴被告らの負担とする。

五  この判決は一、二項に限り仮に執行することができる。

反訴請求事件

一  反訴被告鈴木孝幸は、反訴原告井住運送株式会社に対し、二八万五一三一円及びこれに対する昭和六〇年八月二七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴原告井住運送株式会社の、その余の請求を棄却する。

三  反訴訴訟費用については、これを五分し、その一を反訴原告井住運送株式会社の負担とし、その余を反訴被告鈴木孝幸の負担とする。

四  この判決は一項に限り仮に執行することができる。

事実

本訴請求事件

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  本訴被告らは、連帯して本訴原告鈴木孝幸に対して一七五四万二二三五円及び内金一六五四万二二三五円に対しては昭和六〇年八月二七日から、内金一〇〇万円に対しては昭和六三年一二月三日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  本訴被告らは、連帯して本訴原告鈴木和子に対して二一九〇万二五五八円及び内金二〇九〇万二五五八円に対しては昭和六〇年八月二七日から、内金一〇〇万円に対しては昭和六三年一二月三日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  本訴訴訟費用は本訴被告両名の負担とする。

4  1、2項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  本訴原告らの請求をいずれも棄却する。

2  本訴訴訟費用は本訴原告らの負担とする。

第二請求原因

一  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

1  発生年月日 昭和六〇年八月二七日午後二時四〇分ころ

2  発生場所 東京都江東区南砂二―二六―六先路上

3  被害車両 普通乗用自動車(練馬五九さ九八一六、以下「鈴木車」という。)

運転者 本訴原告鈴木孝幸

同乗者 訴外亡鈴木貫一、原告鈴木和子

4  加害車両 大型貨物自動車(品川一一か九六六六、以下「鴨反車」という。)

運転者 本訴被告鴨反勘次郎

5  事故態様 本訴原告鈴木孝幸は、通称浦安葛西通りの左側車線を浦安方面から日本橋方面に向けて進行していたが、本件事故現場付近において、右側車線に進路変更しようとして、同車線に後続者がないことを確認し、速度を上げながらハンドルを右に切り同車線に入つたところ、鴨反車が後ろから猛烈なスピードで接近し、鈴木車は逃げる間もなく鴨反車に追突され、そのため鈴木車は突き飛ばされて対向車線に押し出され、折から対向車線進行してきた訴外豊嶋勝利運転の大型貨物自動車(以下「豊嶋車」という。)の前部と鈴木車の左側前部とが衝突し、そのため鈴木車は反転して、鴨反車と豊嶋車との間に挟まれた。

6  本件事故により、鈴木車の助手席に居た訴外鈴木貫一は左胸腔内蔵器損傷の傷害を負い、約二時間後の同日午後四時四六分ころ死亡し、後部座席に居た本訴原告鈴木和子は第一、三腰椎圧迫骨折の傷害を負い、同日藤崎病院に入院し、本訴原告鈴木孝幸は頭部外傷乙型、頚椎捻挫、左肩部挫傷、左側頭部座創、右下腿部挫傷、擦過創、左鎖骨骨折の傷害を負い、同日同病院に入院した。

二  本訴被告らの責任

1  本訴被告鴨反は、自車の前方の道路状況につき十分注意を払うべき義務があり、かつ、容易に見通すことができるのに、前方注意義務を怠つて漫然と従前の速度のまま進行し、また、鈴木車が前方で進路を変更していたのであるから、鈴木車の速度以下で進行するか、ハンドル、ブレーキ等の操作により追突を回避すべき義務があり、かつ、回避することが十分可能であつたのに、これを怠り、追突に至つたものであるから、本訴被告鴨反は民法七〇九条の責任がある。

2  本訴被告井住運送株式会社は、自賠法三条の責任がある。

三  損害

1  訴外亡鈴木貫一の死亡による損害

(一) 治療費 四一万五一〇〇円(ただし、検死料一〇〇〇円を含む。)

(二) 逸失利益 九〇七万〇四七五円

(三) 死亡慰謝料 一六〇〇万円

(四) 葬儀費 一八二万八一二〇円

訴外亡鈴木貫一の右損害は、本訴原告鈴木孝幸と本訴原告鈴木和子とで各々二分の一を相続した。

2  本訴原告鈴木孝幸の損害

(一) 治療費 六〇万二九一八円(ただし、文書料一万六〇〇〇円、付添看護費五万八三四八円及び交通費一万四〇〇〇円を含む。)

(二) 傷害慰謝料 五〇万円

(三) 豊嶋車への賠償立替金分 一七八万二四四〇円

3  本訴原告鈴木和子の損害

(一) 治療費 一一五万六九九五円(ただし、文書料八〇〇〇円、ギプス代五万四三〇〇円、付添看護費四二万五三七五円、入院雑費九万一〇〇〇円、医師謝礼四万円及び交通費三五〇〇円を含む。)

(二) 逸失利益 一〇八万八六八六円

(三) 傷害慰謝料 一五〇万円

(四) 後遺障害慰謝料 三五〇万円

本訴原告鈴木和子の損害は、自賠責保険から四二八万五〇〇〇円が支払われている。

4  弁護士費用

本訴原告鈴木孝幸、本訴原告鈴木和子は、本件訴訟代理人弁護士に対し、本件訴訟の委任報酬として各々一〇〇万円を支払うことを約した。

四  よつて、本訴請求の趣旨記載の判決を求める。

第三請求原因に対する認否

一  本訴請求原因一項のうち1ないし4は認め、5については本訴原告鈴木孝幸が右側車線に後続車がないことを確認してハンドルを右に切つて同車線に入つたこと、鴨反車が後ろから猛烈なスピードで接近したこと、鈴木車が対抗車線に押し出されたことは、いずれも否認し、その余は認め、6については否認する。

二  同二項は否認する。

三  同三項は自賠責保険の支払いは認め、その余は知らない。

四  同四項は争う。

第四抗弁

一  免責

本訴原告鈴木孝幸は、昭和六〇年八月七日に普通免許を取得したばかりであつたことから、二種免許を有する父親訴外鈴木貫一を助手席に同乗させて同人の指導を受けながら運転していたところ、本件事故現場手前で自車の右側車線を走行する鴨反車と併走するに至つたが、その際、自車進路前方道路左側端に停車中の普通貨物自動車を発見した。右貨物自動車は、道路左側端に停車していたから、車線を変更することなくその右側を通行しえるのに、車線を変更する必要がないのに、仮に、車線を変更するならば、右側車線の通行車両の有無、動静に注意し、同車との接触事故を避けるべきであるのに、右停車中の普通貨物自動車を発見するや、あわててハンドルを右に切つたため、右側車線を走行中の鴨反車の左前側部に接触し、さらに運転の自由を失つて対向車線に飛び出した。従つて、本訴被告鴨反勘次郎には何らの過失もなく、本訴原告鈴木孝幸の一方的過失によるものである。

二  過失相殺

車線の変更は、右側車線の通行車両の有無、動静に注意してなされるべきであるのに、本訴原告鈴木孝幸は、鴨反車の動向を無視して無理に車線変更したため本件事故を発生させたものであつて、同人の過失は重大であり、本訴原告鈴木和子と訴外亡鈴木貫一は本訴原告鈴木孝幸の父母であつて、同人と生活を共にするものであるから、同人の過失は被害者側の過失として斟酌されるべきである。

第五証拠

本件記録中証拠関係目録記載のとおりである。

反訴請求事件

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  反訴被告鈴木孝幸は、反訴原告井住運送株式会社に対し、四九万〇一七五円及びこれに対する昭和六〇年八月二七日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  反訴訴訟費用は反訴被告鈴木孝幸の負担とする。

3  1項につき仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  反訴原告井住運送株式会社の請求を棄却する。

2  反訴訴訟費用は反訴原告井住運送株式会社の負担とする。

第二反訴請求原因

一  本件事故の事故態様は、反訴原告井住運送株式会社従業員の鴨反勘次郎が鴨反車を運転し、本件事故現場付近道路のセンターライン寄りを走行していたところ、同道路の左側車線を走行していた反訴被告鈴木孝幸が、鴨反車の後方から追い上げ、併走するに至つたが、自車線前方に駐車車両があつたため、これとの衝突を避けようとしてハンドルを右に切り、鴨反車と接触した。

二  反訴被告鈴木孝幸の過失

反訴被告鈴木孝幸は、昭和六〇年八月七日に普通運転免許を取得したばかりで、運転未熟であるところ、前方注視を欠き、かつ、高速度で鴨反車後方から同車を追い抜こうとしたが、進路前方に駐車車両発見するや、狼狽のあまり、鴨反車が併走しているのに、右にハンドルを切つたものであるが、自動車運転者として、基本的な義務である前方注視を欠いたために、自車進路前方の駐車車両の発見が遅れ、かつ、同車線は幅員が四・八メートルで右駐車車両の右側には約二・八メートルの余裕があり、鈴木車の車幅は一・六七メートルであるから、ハンドルを右に切らなくても減速するのみで通行可能であるのに、狼狽のあまり右転把した過失がある。

三  反訴原告の損害

1  車両修理代 一八万〇六五〇円

2  休車損害 一五万九五二五円

3  弁護士費用 一五万円

四  よつて、反訴請求の趣旨記載の判決を求める。

第三反訴請求原因に対する認否

一  反訴請求原因一項のうち反訴原告井住運送株式会社の従業員の鴨反勘次郎が鴨反車を運転していたことは認め、その余は否認する。

二  同二項のうち反訴被告鈴木孝幸が普通運転免許を取得した年月日は認め、その余は否認する。

三  同三項は知らない。

四  同四項は争う。

第四証拠

本件記録中証拠関係目録記載のとおりである。

理由

一  本件事故の発生年月日、発生場所、被害車両(鈴木車)並びに鈴木車の運転者及び同乗者、加害車両(鴨反車)及び鴨反車の運転者については当事者間に争いはない。

本件事故の事故態様につき、本訴原告らは、鈴木車が右側車線に進路変更しようとして同車線にはいつたところ、鴨反車が後ろから猛烈なスピードで接近し、鈴木車に追突した旨主張し、本訴被告らは、鈴木車は鴨反車と併走するに至つたが、自車車線前方に駐車車両を見るや、あわててハンドルを右に切り、右側車線を走行中の鴨反車に接触した旨主張する。

1  成立に争いのない甲第二号証、甲第一八号証ないし甲第二三号証、甲第二五号証、鈴木車の写真であることにつき争いのない甲第二九号証の一ないし九、本件事故現場の写真であることにつき争いのない甲第三二号証の一ないし一一、豊嶋車の写真であることにつき争いのない甲第三三号証の一ないし一二、成立に争いのない乙第一号証ないし乙第三号証、乙第八号証、本訴原告(反訴被告)鈴木孝幸、本訴原告鈴木和子及び本訴被告鴨反勘次郎の各本人尋問の結果、鑑定の結果、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場である東京都江東区南砂二丁目二六番六号先付近道路(以下「本件道路」という。)は、地下鉄東西線南砂駅から直線距離で北西約一〇〇〇メートルの地点に位置し、明治通り方面(南東)から豊砂橋方面(北西)へ走る永代浦安通りと称されている道路である。

本件道路は、歩車道の区別があり、車道幅員一六・八メートルのアスフアルト舗装道路であり、車線及び中央線が白ペイントで明瞭に表示され、中央線上にチヤツターバーが設置されていて、直線、平坦で見通しの良い道路である。道路の両側は、店舗や高層住宅が並んでいる。歩道の幅員は二・七メートルである。

本件道路の交通規制は、公安委員会の指定により最高速度四〇キロメートル毎時と定められているほか、駐車禁止、転回禁止、歩行者横断禁止とされているが、本件事故当時、鈴木車の走行車線前方に駐車車両があつた。

(二)  本訴原告(反訴被告)鈴木孝幸(以下「原告孝幸」という。)は、助手席に訴外亡鈴木貫一(以下「亡貫一」という。)を、後部座席に本訴原告鈴木和子(以下「原告和子」という。)を同乗させ、鈴木車を運転して明治通り方面から豊砂橋方面へ向けて本件道路の左側寄り車線(第一車線)を進行していた。

本訴被告鴨反勘次郎(以下「被告鴨反」という。)は、本訴被告(反訴原告)井住運送株式会社(以下「被告会社」という。)の従業員で、同社の所有する鴨反車を運転して、明治通り方面から豊砂橋方面へ向けて本件道路の中央線寄り車線(第二車線)を進行していた。

訴外豊嶋勝利(以下「訴外豊嶋」という。)は、豊嶋車を運転して、豊砂橋方面から明治通り方面へ向けて本件道路の中央線寄り車線(第二車線)を進行していた。

(三)  本件事故により、鈴木車は、本件道路現場中央線をまたぐようにして、前部を明治通り方面(南東)へ向けて停止し、豊嶋車も同じく前部を明治通り方面(南東)へ向けて停止し、鴨反車は、前部を豊砂橋方面(北西)へ向けて停止し、豊嶋車と鴨反車とで鈴木車を挟むような状態であつた。

(四)  本件事故現場には、鴨反車の進路にあたる路面に南東か北西へ向かう直線のダブルスリツプ痕二条が鮮明に印象されていて、この痕跡の長さは右後輪四・八〇メートル、左後輪三・九メートルであり、鈴木車進路にあたる路面には南東から北西へ向かう湾曲した横滑り痕二条が鮮明に印象されていて、この痕跡の長さは左一八・一メートル、右三・九メートルで、更に同車の右後輪の横滑り痕一条が印象されていて、その長さは二・七メートルであり、豊嶋車の進路にあたる北西から南東へ向かう直線のダブルスリツプ痕二条が鮮明に印象されていて、その長さは右後輪三・六五メートル、左後輪三・六五メートルである。

(五)  鈴木車は、ほぼ大破し、右側面後部及び左側面部等が凹損しているが、右側面後部フエンダーの凹損箇所には、前上方から後下方に斜めの方向に屈曲じわ数条形成されており、リアランプとほぼ同一高さ付近に前下方から後上方の方向にひきづり痕があり、右前輪タイヤに損傷がある。

鴨反車は右前端角部が損傷しており、右前部バンパーがバンパーステーから先の部分で曲がつており、右ステツプ前部等に軽微な変形があり、右フエンダー等を凹損し、左前部バンパーに凹損がある。

豊嶋車は、右前部バンパー、フエンダー等の凹損がある。

2  ところで、乙第一号証、乙第三号証、被告鴨反本人尋問の結果によると、鴨反車の前部左側と鈴木車の右側後部ドア付近の右側面とが接触した旨の、また、乙第八号証には、鈴木車のタイヤ痕が連続的であり、他に外力が加わればズレが生ずるはずだから、右連続的状態からいつて、他に外力の加わりはないはずであり、鴨反車の右前部が鈴木車に衝突し、変形、破損を生じさせているはずであることからしても、鈴木車の右後部フエンダーの損傷は鴨反車の右前部による右斜め前方からの力によつて形成されたと考えられることから、鈴木車が車線変更するとき急ハンドルを切つたため車体にスピンを生じ、そのまま対向車線へ進行して豊嶋車に衝突、更に後続の鴨反車が衝突したと推定される旨のいずれも被告ら主張に添う部分がある。

しかしながら、右側後部ドア付近に、鈴木車と鴨反車との右態様の接触を窺わせるような破損状況は見られないし、また、鈴木車の右後部方向指示ランプ及びテールランプは、前方に折れ曲がつているものと認められるし、鴨反車の左前部バンパーに凹損があつたのであり、被告鴨反も本人尋問において「ハンドルに重みを感じた」等と供述し、原告和子は本人尋問において「後ろのほうで何か大きな凄い音がした」等と供述し、これらに照らし、鴨反車の左前部が鈴木車の右後部に衝突したと認定するのが相当である。

3  ところで、原告らは、鈴木車が右側車線に入ろうとしたところに、鴨反車が後方から猛烈なスピードで追い付き、追突した旨主張するが、訴外豊嶋は、証人尋問において、「鈴木車と鴨反車は併走していた」旨供述し、被告鴨反も本人尋問において、前を見て運転していたけれども、前方に鈴木車を本件事故になるまで見ることはなかつた旨供述し、本件事故以前、鴨反車の前方に鈴木車がいなかつたことについては右両名の供述内容は一致していると言えるし、本件道路が見通しの良い道路でもあることから同人らの見落としは考えにくいので、右訴外豊嶋の供述は信用できるうえ、鴨反車の速度も毎時四〇キロメートルの制限速度を超えていたものの、時速五〇キロメートルは超えていなかつたものと認められるので、鈴木車が鴨反車を追い越して、その直前に侵入したものと認定するのが相当である。

以上の事実関係によれば、原告孝幸が、鈴木車を運転し、被告鴨反の運転する鴨反車の右後方から追い付いてきて、追い抜きながら右転把して車線を変更したところ、鈴木車が減速していたか鴨反車が増速していたかしたため、鴨反車前部左側が鈴木車後部右側に衝突し、その衝撃で、鈴木車は対向車線に飛び出し、折から反対方向から走行してきた訴外豊嶋運転の豊嶋車の前部右側が鈴木車の左側面に衝突し、鈴木車が回転したところ、鴨反車の前部右側が鈴木車の右側面に衝突したものと認められる。

三  右の次第であるから、被告鴨反にとつては、鈴木車が鴨反車の前方に突然進入してきたことになるのではあるが、被告鴨反が鴨反車の制限速度を守り、左側車線前方に駐車禁止場所なのにもかかわらず駐車車両があつたのであるから、同車線の走行車両が車線変更することもあること等を予想し、同車線の車両の動静にも気を配つていれば、いち速く鈴木車の動静に気付き、速度もそれほど出ていなかつたのであるから、減速する等の方法で衝突を避けえたものと認められるので、被告鴨反が回りの状況を注意していなかつたことが、本件事故の原因と認められるものといえるので、被告鴨反に過失があるから民法七〇九条にもとづき、被告会社は、鴨反車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであるから自賠法三条にもとづき、原告らが本件事故により被つた損害を賠償すべき責任があり、また、原告孝幸は、車線を変更する場合は、変更する車線の車両の有無、その動静等に注意し、他人に危害を及ぼさないようにしなければならない義務があるのに、鴨反車の動静を無視し、同車の進路直前に進入したため本件事故を惹起させたものといえるので、原告孝幸に過失があるから民法七〇九条にもとづき、被告会社が本件事故により被つた損害を賠償すべき責任がある。

四  原告らの損害

1  亡貫一の死亡による損害

(一)  治療費 四一万五一〇〇円

成立に争いのない甲第三号証、甲第四号証、甲第七号証、弁論の全趣旨によれば、治療費として四一万五一〇〇円(死体検案書料一〇〇〇円を含む。)が認められる。

(二)  逸失利益 〇円

成立に争いのない甲第八号証の五、原告孝幸及び原告和子各本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、亡貫一は、大正一〇年六月二三日生まれで、本件事故当時無職であつて、厚生年金の受給を受けて生活していたものであり、亡貫一が就職する蓋然性を認めるに足りる証拠はなく、厚生年金は社会保障的見地から被保険者の生活保障を目的とする制度であるというべきであるから、本件事故後の逸失利益は認められない。

(三)  死亡慰謝料 一五〇〇万円

亡貫一の年齢、経歴、性別、家族関係、本件事故状況等諸事情を考慮して、死亡慰謝料として一五〇〇万円が相当と認められる。

(四)  葬儀費 一〇〇万円

弁論の全趣旨により成立の認められる甲第五号証の一ないし八、甲第六号証、弁論の全趣旨によれば本件事故と相当因果関係のある亡貫一の葬儀費として一〇〇万円が相当と認められる。

2  原告孝幸の損害

(一)  治療費 五八万八九一八円

成立に争いのない甲第一四号証の一、二、甲第一五号証の一、二、甲第一六号証、弁論の全趣旨によれば治療費として五八万八九一八円(文書料一万六〇〇〇円及び付添看護費五万八三四八円を含む。なお、交通費を認めるに足りる証拠はない。)が認められる。

(二)  傷害慰謝料 三〇万円

原告孝幸の傷害の部位、程度、治療期間、本件状況状況等諸事情を考慮して傷害慰謝料として三〇万円ず相当と認められる。

(三)  豊嶋車への賠償金立替分 〇円

原告らは、原告孝幸が豊嶋車への賠償金を立て替えている旨主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はない。

3  原告和子の損害

(一)  治療費 一一一万三四九五円

成立に争いのない甲第九号証の一ないし四、甲第一〇号証の一、二、甲第一一号証の一ないし五、甲第一二号証の一、二、甲第一三号証の一ないし四、弁論の全趣旨によれば、治療費として一一一万三四九五円(文書料八〇〇〇円、ギプス代五万四三〇〇円、付添看護費四二万五三七五円及び入院雑費九万一〇〇〇円を含む。なお、医師謝礼及び交通費を認めるに足りる証拠はない。)が認められる。

(二)  逸失利益 一〇八万八六八六円

成立に争いのない甲第一一号証の六ないし九、原告和子本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば、原告和子は、本件事故により相当の期間主婦として十分稼働することが出来なかつたので、逸失利益として一〇八万八六八六円が相当と認められる。

(三)  傷害慰謝料 一〇〇万円

原告和子の傷害の部位、程度、治療期間、事故状況等諸事情を考慮し、傷害慰謝料として一〇〇万円が相当と認められる。

(四)  後遺障害慰謝料 一五〇万円

甲第一三号証の四、原告和子本人尋問の結果によれば、原告和子は、本件事故により第一、三腰椎圧迫骨折の傷害を受けたことにより腰痛が時々出現し、時々コルセツトの装用の必要がある後遺障害を負つているので、後遺障害慰謝料として一五〇万円が相当と認められる。

4  以上損害合計額

(一)  亡貫一 一六四一万五一〇〇円

(二)  原告孝幸 八八万八九一八円

(三)  原告和子 四七〇万二一八一円

5  過失相殺

(一)  原告孝幸は、前記認定のとおり鈴木車を鴨反車の前方直前に進入させたもので、右側方ないし右後方の安全の確認を怠つた過失があるから、その七割五分を過失相殺して減額すべきものであり、原告和子及び亡貫一は、原告孝幸の父母であり、同居しているものであり、生活を一にするものであり、本件事故が原告孝幸の過失と被告鴨反の過失が競合して惹起されたものであるから、公平の観点から同割合を減額するのが相当である。

(二)  よつて、亡貫一の損害は四一〇万三七七五円、原告孝幸の損害は二二万二二二九円、原告和子の損害は一一七万五五四五円であるところ、原告和子は、自賠責保険から四二八万五〇〇〇円の支払いを受けているので、損害はすべて填補されている(なお、原告らは、原告和子は自賠責保険から支払いを受けていない旨本件審理の途中で主張を変えているが、甲第二七号証の三は「自賠責保険金お支払通知書」となつていて、自賠責保険からの支払いと認められる。)。

6  相続

甲第八号証の五、原告孝幸の本人尋問の結果により成立の認められる甲第八号証の一ないし四、原告孝幸及び原告和子各本人尋問の結果によれば、亡貫一の右損害は、原告孝幸と原告和子とで各々二分の一を相続したことが認められる。

よつて、原告孝幸の損害は二二七万四一一六円、原告和子の損害は二〇五万一八八七円となる。

7  弁護士費用 原告ら各自二〇万円(四〇万円)

弁論の全趣旨によれば、原告らが原告ら訴訟代理人に本件訴訟を委任し、その費用を支払うことを約したことが認められるので、本件事故と相当因果関係のある費用としては原告ら各自二〇万円(四〇万円)が相当と認められる。

8  よつて、原告孝幸は、被告らに対し、連帯して二四七万四一一六円及びこれに対する本件事故日である昭和六〇年八月二七日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告和子は、被告らに対し、連帯して二二五万一八八七円及びこれに対する右同様右同日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

五  被告会社の損害

1  証人比留間利男の証言により成立の認められる乙第五号証及び乙第六号証、証人比留間利男の証言、弁論の全趣旨によれば、本件事故により鴨反車が破損し、その修理のために修理費として一八万〇六五〇円を要したことが認められ、その修理の期間、同車を使用することが出来ず、休車損害として一五万九五二五円を被つたことが認められる。

2  以上合計損害額 三四万〇一七五円

3  過失相殺

被告鴨反には前記のような過失があり、同人は被告会社の従業員であるから、その二割五分を過失相殺して減額するのが相当である。

よつて、被告会社の損害は、二五万五一三一円である。

4  弁護士費用 三万円

弁論の全趣旨によれば、被告会社が被告会社訴訟代理人に本件訴訟を委任し、その費用を支払うことを約したことが認められるので、本件事故と相当因果関係のある費用としては三万円が相当と認められる。

5  よつて、被告会社は、原告孝幸に対し、二八万五一三一円及びこれに対する本件事故日である昭和六〇年八月二七日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、被告会社のその余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原田卓)

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